『オールド・テロリスト』村上龍|アハトアハトをぶっ放す老人たちが、最高にかっこよかった
武装した老人たちが、対戦車砲アハトアハトをぶっ放す。
もう、この設定だけで面白い。
村上龍の『オールド・テロリスト』は、『半島を出よ』と並んで僕の大好きな作品だ。
満州国に因縁を持つ老人たちが、武器を手に現代日本をひっくり返そうとする。老人といっても年代はさまざまで、単純にひとくくりにはできないのだけれど、とにかく恐ろしくパワフルな連中だ。
もう無茶苦茶である。
しかも、ただの無謀な老人集団ではない。知恵も経験もあり、確固とした信念を持っている。
その暴れっぷりが痛快で、読んでいる間はすっかり彼らの側に立っていた。
年寄りをなめるな
物語の舞台は、衰退しつつある近未来の日本。
「満州国の人間」を名乗る老人たちが、次々と大規模なテロを起こしていく。
普通、老人と聞いて想像するのは、体力も衰え、社会の第一線から退いた人たちかもしれない。
ところが、この老人たちは違う。
戦争の時代を知る者たちが持つ経験と知識。そして、今さら失うものなどないとでもいうような大胆さ。
現代社会の常識や秩序など、お構いなしに行動していく。
それに翻弄される社会の姿も面白い。
圧倒的な力を持っているはずの国家や組織が、老人たちに振り回される。普通なら弱い立場にいる人々が、強い側を追い詰めていく。
僕はこういう逆転劇が大好きだ。
『半島を出よ』では少数の侵略軍、『希望の国のエクソダス』では中学生たち。そして今度は老人たち。
村上龍は、既存の秩序を少数の人間が壊していく物語を、本当に面白く描く。
アハトアハトまで持ち出すのか
印象に残っているのは、やはり老人たちの武装と戦闘だ。
アハトアハト。ドイツ軍の88ミリ砲として知られる兵器で、第二次世界大戦では対戦車戦にも使われた。
そんなものを持ち出して、現代の日本で戦おうというのだから恐れ入る。
しかも彼らは、決して勢いだけで動いているわけではない。
知識も経験もあり、自分たちなりの考えがある。年齢を重ねても行動力を失わず、やると決めたことを実行していく。
そこがかっこいい。
もちろん、現実のテロ行為を肯定する気はない。
でも小説の中では、彼らの思想が正しいかどうかより、その圧倒的な行動力と生き様に惹かれた。
年を取ったらおとなしく余生を過ごす。
そんな世間のイメージとは、まるで反対にいる老人たち。
自分もこんなパワフルな老後を送りたいと思った。
武器を手に暴れたいという意味では、もちろんないけれど。
あっけない最後が、なぜか悲しかった
ここからは結末に触れる。
あれほど豪快に暴れ回り、日本社会を翻弄してきた老人たち。
最後は米軍の特殊部隊によって、あっけなく全滅させられる。
その圧倒的な力の差。
それまでの老人たちの活躍を見てきただけに、あまりにもあっけない。
けれど、読み終えたときに残ったのは、単なる敗北の悔しさではなかった。
何というか、スローモーションのような余韻があった。
あれだけ派手に暴れ、社会への怒りをぶつけても、最後には何が残るのだろう。
老人たちが背負ってきた過去や、彼らの人生そのものが頭に浮かぶ。
哀愁というのか。憐憫というのか。
妙な虚しさに包まれた。
そして、泣けた。
彼らの行動が正しかったからではない。
最後まで自分たちの信念を貫こうとした、その生き様が心に残ったのだと思う。
こんな老人になりたい
この作品を読み返すとしたら、やはり老人たちの信念と行動力をもう一度楽しみたい。
年齢を重ねても、こんなにエネルギッシュに生きられるものなのか。
彼らはもう、死ぬことさえ怖がっていないように見える。
自分たちの信じるもののためなら、命を落とすことも厭わない。そこまでやるか、と思うほど徹底している。
無茶苦茶だ。だけど、かっこいい。
もちろん、現実にあんなことをやられては困る。
でも、死を恐れず信念を貫く姿には、どうしたって惹かれる。
僕も年を取ったからといって、何もかも諦めておとなしくなりたくはない。
戦後の日本に密かに持ち帰り、何十年ものあいだ隠し持っていたアハトアハトまで引っ張り出して暴れ回る老人たち。
そこには、積年の想いがあったのだろう。
それにしても、こんな連中をここまで魅力的に描くとは。
しかも、最後には泣かされる。
村上龍、やっぱり凄い。
この記事で扱った本
Amazonで見るオールド・テロリスト