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『五分後の世界』を読んで · 読書感想・書評

5分ずれた世界で、日本はまだ戦い続けていた――村上龍『五分後の世界』

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現実と地続きに見える、もうひとつの日本

村上龍の作品を何冊か読んでいた流れで手に取った一冊だったと思う。

『五分後の世界』というタイトルからは、少し先の未来を描いた物語のようにも思える。けれど、ここで描かれるのは、僕たちがいる世界から時間がわずか5分ずれただけの、まったく異なる日本である。

主人公の小田桐が迷い込んだのは、第二次世界大戦で無条件降伏を拒み、その後も戦争を続けている日本だった。

国土の多くを失い、生き残った日本人たちは地下に国家をつくっている。地上では今も連合国軍との戦闘が続き、人々は日常のすぐ隣に死がある世界を生きている。

しかし、この作品の世界は完全な絵空事には見えなかった。

歴史の途中にあったひとつの選択が違っていたら、日本はこのような国になっていたかもしれない。現在の僕たちの世界と、五分後の世界。その間にあるのはわずかな時空のずれだけなのだと思うと、どこかに本当に存在していそうな怖さがあった。

状況を理解する前に、戦闘が始まる

小田桐は、自分がなぜこの世界へ来たのかも分からないまま、戦いに巻き込まれていく。

泥と硝煙の匂いが漂う場所へ突然放り込まれ、状況を把握するより先に、自分の身を守らなければならなくなる。

この容赦のなさがいい。

戦闘の描写にはものすごい速度と緊張感がある。銃や爆発物が登場し、人が傷つき、命を落とす。その場で迷っていれば、自分も死ぬ。

小田桐は異常な世界を前に立ち尽くすのではなく、次第にそこで生きるための判断をするようになる。

特別な使命を与えられた英雄というより、目の前の状況へ対応し続けた結果、戦う側へ入っていく。その適応の速さと、生き残ろうとする力が印象に残った。

読んでいるこちらも、細かな設定を頭の中で整理する余裕を与えられない。何が起きているのかを考えながら、主人公と一緒に戦場を走らされるような感覚になる。

生き延びることと、誇りを失わないこと

地下で生きる日本人たちは、僕たちの世界から見れば非常に厳しい暮らしをしている。

平和でもなければ、物質的に豊かなわけでもない。明日も生きていられる保証すらない。

それでも彼らには、自分たちの国や文化を守り抜くという強い意志がある。

その姿を単純に美化することはできない。無条件降伏を拒んだ結果、多くのものを失い、終わらない戦争を続けているのだから、それを正しい選択だったと言い切ることもできない。

ただ、極限の環境に置かれた人間たちの覚悟には圧倒される。

生き残るための技術を持ち、自分の役割を果たし、仲間の死を背負いながら戦い続ける。そこには、平和な社会の中で暮らしていると意識することのない、人間の誇りがあるように感じた。

五分後の世界は凄惨である。

しかし、絶望だけに覆われているわけではない。そこには強烈な生命力があり、過激で、異様なほどエネルギッシュである。

そのため、恐ろしい世界を読んでいるはずなのに、戦闘を読み切ったあとには妙な高揚感が残った。

村上龍のテロ・サバイバル系

『五分後の世界』は、僕にとっては『半島を出よ』などにつながるテロ・サバイバル系の一冊である。

その勢いに飲み込まれ、もっとこの世界を見てみたいと思った。

そして実際に、続編の『ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界Ⅱ』も読んだ。

この系統では、今回初めて読んだ『オールド・テロリスト』も良かった。『半島を出よ』のように、また再体験したい。自分の中のリピート組に、今回仲間入りした一冊だ。

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