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『昭和歌謡大全集』を読んで · 読書感想・書評

青春の勢いを、悪意の方向へ振り切った――村上龍『昭和歌謡大全集』

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村上龍の作品を続けて読んでいた頃に手に取った一冊。

『昭和歌謡大全集』という題名だけを見れば、懐かしい歌をめぐる穏やかな物語のようにも思える。

しかし、実際に描かれるのは、夜ごと集まってカラオケに興じる6人の若者と、「ミドリ」という名前を共通点に集まった中年女性たちによる、際限のない報復合戦である。

最初のきっかけは、あまりにも些細なものだった。

ひとりの若者が、ひとりの女性を殺す。仲間を殺された女性たちは復讐し、今度は若者たちがやり返す。

それで終わるはずがない。

報復は次の報復を呼び、やがて2つの集団の争いは、個人同士の喧嘩では済まない規模へ広がっていく。

普通に考えれば、陰惨で救いのない話である。

ところが、この小説は妙に明るい。

登場人物たちは昭和歌謡を歌い、殺し合いはどんどん大げさになり、物語は悲劇として沈んでいくのではなく、どこか笑ってしまうほどの勢いで暴走していく。

些細な出来事が、戦争に変わるまで

この作品で印象に残るのは、報復が拡大していく速度である。

どちらも、途中で立ち止まろうとはしない。

自分たちが先に傷つけられたのだから、やり返すのは当然だと考える。そして、それぞれの集団の中では、その理屈がいつの間にか正義になっていく。

外から見れば、最初から最後まで異常である。

けれど、当人たちの中では一応の理由があり、仲間を守るための行動でもある。だからこそ、引き返せなくなる。

その考えが双方で膨らみ続ければ、最後に残るのは戦争である。

本作では、その過程が重々しく描かれるわけではない。事態が深刻になるほど、むしろ展開は荒唐無稽になり、勢いを増していく。

そこが怖く、同時におかしい。

昭和歌謡と殺し合いの、あり得ない組み合わせ

題名にもなっている昭和歌謡は、物語の飾りではない。

若者たちはカラオケに集まり、「恋の季節」や「星の流れに」といった歌を歌う。

人を殺すことと、懐かしい歌を熱唱すること。

本来なら同じ場所に並びそうにない2つのものが、この小説では何の違和感もないように同居している。

いや、違和感しかないからこそ、強く記憶に残るのかもしれない。

昭和歌謡には、悲しみや恋や別れが、分かりやすい言葉と旋律で込められている。その情緒のすぐ隣で、人間が乾いた調子で殺されていく。

その落差によって、暴力はさらに異様に見える。

それでも登場人物たちは、自分たちが異常な世界にいるとは思っていないように見える。

歌うときは本気で歌い、復讐するときは本気で復讐する。

やっていることは滅茶苦茶なのに、中途半端ではない。

その迷いのなさに押され、こちらも理屈で考えることを途中から諦めてしまう。

次は何をするのか。どこまで大きくなるのか。

気づけば、殺し合いを描いた物語を、笑いながら勢いよく読み進めている。

『69 sixty nine』の明るさを、悪意へ向けたような作品

前に読んだ『69 sixty nine』にも、若者たちが集まり、退屈な日常を自分たちの力で壊そうとする勢いがあった。

学校や大人が決めた秩序をそのまま受け入れず、馬鹿なことへ本気で飛び込んでいく。

その過激さとエネルギーは、『昭和歌謡大全集』にも通じている。

ただし、向かう方向はまるで違う。

『69 sixty nine』では、若者たちの力はフェスティバルや騒動を起こす方向へ向かっていた。無鉄砲ではあっても、その先には楽しさがあり、青春のまぶしさがあった。

本作では、その同じような力が、殺意と報復へ向かう。

退屈を壊すためのエネルギーが、人を楽しませるものではなく、人を傷つけるものへ使われる。

言ってみれば、『69 sixty nine』の明るさを、そのまま悪意の方向へ振り切ったような作品である。

分類するならブラックコメディなのだろう。

ただ、笑えるから軽いわけではない。

人間の残酷さや集団の恐ろしさを描きながら、それを深刻な顔で訴えかけてこない。むしろ、異常な状況をさらに加速させ、笑うしかないところまで持っていく。

この書き方は、村上龍でなければ成立しない気がする。

後味よりも、異様な高揚感が残る

登場人物の誰かへ深く感情移入し、その人生を心配しながら読む小説ではなかったと思う。

若者たちも中年女性たちも、自分たちの仲間を殺された被害者であり、同時に次の殺人を計画する加害者である。

どちらか一方を応援するというより、両者がどこまで暴走するのかを見届けるように読んでいた。

本来なら、後味の悪さが強く残ってもおかしくない。

しかし、僕の記憶に残っているのは、陰惨さよりも異様な勢いと高揚感である。

僕は映画版を観ていないので、この作品を思い出すときに浮かぶのは、映像ではなく、小説の中で次々と規模を増していった報復合戦である。

荒唐無稽で、悪趣味で、過激で、なぜか痛快でもある。

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