「大手だから、なんぼのもんじゃ」――『下町ロケット』を読んで
『下町ロケット』を読んでいて、何より気持ちよかったのは下克上だった。
規模も資金力も知名度も違う。まともに比べれば、最初から勝負にならないように見える。
それでも、自分たちにしかない技術を武器に食らいついていく。
「大手だから、なんぼのもんじゃ」
そんな反骨精神に、どうしても熱くなる。
大企業が性に合わなかった
私自身、昔は大企業にいたことがある。
組織が大きいからこそできる仕事もある。人も資金も情報も集まり、会社の看板だけで相手の反応が変わることもある。
その強さは、中にいたから分かる。
ただ、どうにも性に合わなかった。
それからしばらく、こぢんまりと仕事をしている。人数も限られているし、大企業のような看板もない。
だからといって、仕事まで小さくなるとは限らない。
むしろ、相手が大きいほど「それがどうした」と思うところがある。
もちろん、無謀に突っ込めばいいわけではない。規模で負けているなら、同じものを同じ方法で競っても勝ちにくい。
必要なのは、狭くても深く尖った、自分たちにしかないものだ。
そしてもう一つ。
その武器を持って、臆せず勝負の場へ出ていく胆力である。
大手と競った入札
以前、ある入札案件で大手企業と競ったことがある。
こちらの武器は、独自の技術だった。
すべてを一から作り直し、新しい仕組みへ入れ替えるのではない。先方がすでに使っている仕組みを生かしながら、必要な部分を刷新する方法を提案した。
結果として、この方法は技術面以外でもうまく働いた。
従来の仕組みは、先方の中にいる誰かが長い時間をかけて築いたものだ。それを丸ごと捨てる提案は、過去の仕事まで否定されたように受け取られることがある。
既存の仕組みを生かす方法なら、かつてそれを作った先達からも反対されにくい。
ただし、そこまで最初から計算していたわけではない。
振り返れば、それも受け入れられた理由の一つだったのだろう、という結果論である。
中心にあったのは、やはり独自の技術だった。
安いからではなく、ここでなければ
受注の通知は、たしかメールで届いた。
細かな順番の記憶は曖昧だが、入札システムで選定理由を見たのだと思う。
そこには、価格が安かったからではなく、「ここでなければ実現できない」という趣旨の言葉が書かれていた。
うれしかった。
安さで選ばれたのなら、さらに安い会社が現れれば簡単に代わられる。
そうではなく、複数の会社と比較されたうえで、自分たちの技術が必要だと言ってもらえた。
メールを見たあと、社内の数人でガッツポーズをした。
人数は少ない。
それでも、その瞬間だけは完全に『下町ロケット』だった。
小さい会社は、大きい会社の真似をしなくていい
小さな会社が大企業に勝つには、大企業の縮小版になろうとしても難しい。
同じ体制、同じ技術、同じ提案なら、規模も実績もある会社のほうが安心に見える。
勝負になるのは、相手が簡単には持てないほど狭く、深く掘った技術があるときだ。
ただし、技術があるだけでも足りない。
「うちの規模では無理だろう」と、自分から勝負を降りてしまえば何も始まらない。
大手が相手でも、看板にひるまず手を挙げる。
「なんぼのもんじゃ」と出ていく。
その少々乱暴な胆力が、尖った技術を初めて武器に変えるのだと思う。
『下町ロケット』の痛快さは、現実離れした逆転劇だからではない。
小さくても、勝てる場所はある。
そのことを思い出させ、もう一度こちらの鼻息を荒くしてくれるからなのだ。
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