思いどおりにいかなくても、また働く――荻原浩『メリーゴーランド』
荻原浩さんの『メリーゴーランド』を思い出すと、まず浮かぶのは、仕事に振り回されながらも奮闘する一人の男の姿だ。コミカルで面白い。でも、笑っているうちに、ちょっぴりホロリとさせられる。
こういう流れが、僕の好きな荻原浩ワールドなんだと思う。
主人公の啓一は、以前の勤め先を辞め、故郷へ戻って市役所で働いている。妻と子どもたちとの平穏な暮らし。そこへ、赤字を抱えたテーマパークの再建という仕事が回ってくる。落ち着いた生活を送るつもりだったのに、ずいぶん厄介なものを任されてしまった。
「あるよね」と笑ってしまう仕事の苦労
啓一が相手にするのは、赤字のテーマパークだけではない。仕事を動かそうとすれば、人の思惑や組織の都合にもぶつかる。こうすれば少しはよくなるのでは、と思っても、そのとおりに進むとは限らない。
読んでいると、「あるよね、そういうこと」と言いたくなる。こちらは仕事を前に進めたいだけなのに、話を通すところから大変だったりする。頑張った分だけ素直に結果が返ってくるなら、どんなにいいだろう。けれど現実の仕事は、なかなかそうはいかない。
そこを荻原さんは、深刻な話一色にはしない。啓一が置かれた状況のおかしさや、思うようにいかない様子に笑ってしまう。笑いながらも、本人にとっては大変だよな、とも思う。仕事でさんざん苦労した日に読んだら、笑えるのか、身につまされるのか。たぶん両方だ。
格好よくなくても、本気になっていく
啓一のいいところは、最初から何でもできる人ではないところだと思う。無理難題を前にして困るし、仕事もすんなりとは進まない。そんな姿には格好悪さもある。けれど、そこが憎めない。
面倒な仕事ほど、適当に済ませたいと思うこともある。なのに、少しでもよくしたいと考え始めると、放っておけなくなる。自分でも、どうしてこんなに本気になっているんだろう、と思うようなことがある。啓一の姿を見ていると、そういう働き方を思い出す。
うまくいかないたびに投げ出したくなってもおかしくない。それでもめげずに動く。大げさな英雄ではなく、日々働いている一人の男が、目の前の仕事を何とかしようとする。その姿がいい。僕がこの本を「一人の男の生き様」だと思うのは、そういうところだ。
笑ったあとに、少し切なくなる
この本を読んでいて感じた切なさは、仕事に本気になればすべて報われる、という話ではないところにあるのだと思う。どれだけ頑張っても、自分だけでは決められないことがある。周りの人の考えもあれば、組織の事情もある。仕事は、熱意一つで何でも変えられるほど単純ではない。
荻原さんの小説には、こういう瞬間がある。人物や状況のおかしさに笑っていると、いつの間にか、その人が背負っているものも見えてくる。『ハードボイルド・エッグ』で感じた、うまくいかない主人公をどこか憎めない気持ちとも、少しつながっているかもしれない。ただ、『メリーゴーランド』では、それが働くことの苦労と一緒にやってくる。
仕事の理不尽さを知ったうえで、なお奮闘する。啓一の姿を思い返すと、何でもうまくいくと励まされたわけではないのに、少し元気が出る。
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